夏の天体観測展WEB SHOPで販売した「ユーカリのクレーター」のお話の続きになります。
「ユーカリのクレーター」のお話はこちら
https://shop.guignol.jp/?pid=151150418

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「ベガの鉄塔」

ユーカリに会えなくなってから半年が過ぎた。
ユーカリは何処へ行ってしまったのだろうか。
あの日「またね」と言ったまま、ユーカリは姿を現さなかった。
ベガは毎日、2人で遊んでいたクレーターに通っていた。
だが、ユーカリに会うことはなかった。
ユーカリの身に何かあったのだろうか。それとも、僕は嫌われてしまったのだろうか。
ベガの心はたくさんの不安で埋め尽くされ、はち切れそうだった。
ふいに、溺れた時のような息苦しさを覚えた。
ぼんやりしていたので気付かなかったが、ベガのマスクの中は涙で満たされていた。

ベガはマスクを外した。
どれくらい振りだろうか。随分と久しぶりに、何のフィルターも通さないで世界を感じた。
ベガは、一瞬の間にいろんなことを思い出した。
視界がこんなにも鮮やかで広いということ、
柔らかい匂いのこと、風が髪をなびかせること、空気の冷たさが鼻の奥をツンとさせること。
ふと、頭上を見上げると、オリオン座が目に入った。

「消失したオリオンのベルトの星、半分こしてユーカリにあげたんだっけ」

そんなことを思い出しながら、ベガは星を数えた。
すると、消失したはずのオリオンのベルトの星がきちんと3つ揃って光っていた。
夢ではないのか?と、ベガは目を擦っては何度も確認する。確かに3つ、並んでいる。
手の中にある半分に割れた星に目を落としながら、ベガはあることを思いついた。

「もしかしたら、まだ間に合うのかもしれない。
 僕は、違う次元にいるのかも。ユーカリに星を渡す前の」

ベガは急いでガラクタを集めると、クレーターの上に鉄塔を建て始めた。

「もし、僕達が今まで生きていた次元にユーカリが居るとしたら、
 同じこの場所でサインを送ったら届くかもしれない」

時空が歪んだというまさに夢のような話ではあったが、その仮説をベガは信じて疑わなかった。
不思議と自信があったのである。
鉄塔が出来ると、ベガはその下で過ごし始めた。
鉄塔にはアンテナが付いており、ベガは毎日そこから信号を発信した。

「趣味でやってた無線がこんなところで役立つとは、皮肉だなあ」

ベガは苦笑いをしながら信号を送り続けた。
いつかユーカリに届くと信じて。
その時、手の中にある半分に割れた星が、やさしく瞬いたような気がした。

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サイズ:横10.5×奥行10.5×高さ19.8cm
素材:石粉粘土、樹脂粘土、金属、布

※光源やモニターによる多少の色の違いはご考慮願います。

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